ムーンライトを見たよ
先日、第89回アカデミー賞で作品賞、脚色賞、そして助演男優賞を受賞した映画「ムーンライト」を鑑賞した。今回はこの映画について筆者なりに感想を書いてみようと思う。
結論から言うと、この映画は高評価と低評価で評価がとても割れる作品になっていると思う。ちなみに筆者は前者よりだが。
3つの時代
主人公はシャロンという少年。彼は薬物中毒の母と共に暮らしており、学校でも「オカマ」とバカにされ、いじめられているおり、唯一の友達はケビンという少年。そんなシャロンの成長、人生を3章にわたって描いている。
- リトル(幼少期)
- シャロン(少年期)
- ブラック(青年期)
という内容。それぞれが均等な長さを取っているため、中弛みしてしまうような事はない。
そして、筆者が面白く感じたのは俳優陣の演技だ。
もちろんそれぞれの時代で別々の俳優がシャロンを演じているのだが、そこに違和感が生じることがなく、それぞれがシャロンとしてそこに存在している。
監督のインタビューによれば、オーディションの際、俳優の「目」に注目し、シャロンと似た感性を持つ俳優を探し出したとか。
また、撮影が終了するまでシャロン役の俳優を互いに会わせず、お互いの演技を似せないように工夫をしたそう。
https://www.youtube.com/watch?v=FVVUryp3Hb4&feature=share
そのおかげでそれぞれの「シャロン」 が観客の目の前に説得力を持って存在している。
また、脇を固めるフアン役のマハーシャラアリ、薬物中毒の母親ポーラ役のナオミ・ハリスの演技は素晴らしい。
純粋なラブストーリー
描かれている題材は現代社会に蔓延る、いじめ、ネグレクト、薬物、などの社会問題であるが、この映画はそこにスポットを当てた社会派映画ではなく、あくまでも主人公が置かれている「環境」として描かれている。この映画はその中で主人公が織りなす純粋でいてとても切ないラブストーリーを描ききっている。
シャロンが抱える、繊細で純粋な心と孤独。そこにポッと月明かりのように現れるケビン。二人の関係は本当に切なく、しかし、愛に溢れている。まさに「悲愛」といえるだろう。
月明かりは照らす
この映画は時に平坦とも思えるほど、流れが丁寧でシャロンの心のように繊細。小説を読むような映画である。
そのため、多少批判の声があるのは致し方ないと思う。恐らく、シャロンに感情移入できるか、シャロンの置かれている環境に映画的なカタルシスを求めるかどうかで、この映画の評価が分かれるだろう。
(筆者は中盤で(多少ネタバレになるが)シャロンがある問題を起こすのだが、それに至った経緯とかが、個人的に筆者の体験と重なる点があり、思わずその時の記憶を思い返して息がつまりそうになった。)
決して万人受けする内容ではないし、退屈に思える箇所もなくはない。
しかし、この映画は「何か」が伝わってくる。(抽象的で申し訳ない)シャロンの痛み、人生には涙を流さずにはいられない。
彼はただ、ただ、純粋なのだ。本当に。
そして、それを照らす月明かり。
月が太陽なしには輝けないようにシャロンもまた愛なしには輝けないのだ。